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紫色の月光

紫色の月光

第三話「コーリング」

第三話「コーリング」



 エリックは巨大な鋼鉄のパシリに追いかけながらも、ランスを力強く握りながら逆転のチャンスを待っていた。

「ハッハッハッ! まるでアリのようだ!! ホラホラホラァッ!!!」

 ディーゼル・ドラグーンのコクピット内で高笑いしているピエロの声が聞こえる。スピーカー越しで聞こえるその声は明らかに勝利した気分でいる。

「ちいっ! いい気になってるんじゃ――――――ねぇよっ!」

 エリックは舌打ちをしてから方向転換。ディーゼル・ドラグーンに向かって突進していく。
 エリックの両手はリーサル・ランスの柄を力強く握っており、その穂先はディーゼル・ドラグーンに向けられていた。

「こうなったら一か八かだ! 喰らいやがれぇぇっ!!」

 エリックがこちらに向かって突進してきたのをディーゼル・ドラグーンが確認した時、コクピット内のピエロは笑みを浮かべながらディーゼル・ドラグーンの操作を行う。
 ディーゼル・ドラグーンは、まるで缶蹴りでも行うかのように右足を振り上げ、そのままエリックに向けて蹴りを放った。


 リーサル・ランスの穂先をディーゼル・ドラグーンの足の指部分に衝突させると同時、ディーゼル・ドラグーンとエリックの両者に衝撃が走った。

 エリックはランスを握ったまま後方に吹っ飛ばされた。彼の身体はまるで矢の様なスピードで宙に浮いており、10秒もしないうちにビルの一階に突っ込んだ。



 ガラスの破砕音が聞こえたのと同時に、誰かが悲鳴をあげた。
 その場に突っ込んできたエリックは、そのままロビーの植木鉢に頭から激突。頭上に星がくるくると回り始め、意識が闇に包まれていった。




 ディーゼル・ドラグーンはランスの一撃を受けて、まるでバナナの皮でも踏んづけたかのように倒れこんでいた。しかも、何分巨大な身体の為、近くのビルを巻き込みながら転倒したのである。一般市民から見たら迷惑極まりない。

 そんなディーゼル・ドラグーンに追い討ちをかけるように、ピエロの耳に声が響いた。先ほど、風船爆弾を勘で見抜いた警官の声だ。

「あー。聞こえるか。そこの巨大な一つ目小僧」

「あのー警部。『ディーゼル・ドラグーン』って言う名前が一応あるんですけど………」

 ネルソンの隣のジョンが呆れたような表情で言った。

「何を言うジョン。『我が道を行け』と言う言葉を知らんのか? 人がどうこういおうが、俺は俺の道を行く」

「………それで一つ目小僧ですか?」

「ああ、どっからどう見ても一つ目だろ?」

 ディーゼル・ドラグーンのモニタアイはネルソンが言うように、一つ目である。その一つ目が、ネルソンの奇妙なネーミングセンスに火をつけたようだ。

「と、話を戻そう。聞こえるか、一つ目小僧。今から貴様を逮捕する。―――――安心しろ、今回はちゃんと特別な手錠を用意してある」

 ネルソンが言い終えたのと同時、彼の後ろから数台のトラックに引っ張られて何かの巨大な影が出現した。
 ディーゼル・ドラグーン専用に作られた、巨大手錠である。しかも、事もあろうかネルソンが発案した代物である。強いて言うならば、ネルソンの秘密道具その一と言ったところか。

「と、言うわけで安心して逮捕されるがいい。一つ目小僧」

「ところで、良くこんな物を作る許可を得れましたね?」

 隣にいるジョンがいかにも不思議そうな顔をしながらネルソンに聞いてきた。

「ああ、あの一つ目にはAIがいるだろ。だから中の宇宙人を逮捕しても奴をどうにかしない限り、安心は出来ないと言う事よ」

「それで許可を得れたわけですか?」

「ああ、以前にもいざ捕まえようと言うところでAIが暴れ出してかなりの被害が出たからな。それを指摘してやったら一発でOKが来た」

 それを聞いたジョンは半ば感心、半ば呆れながらも頷いた。
 
 

 ディーゼル・ドラグーンの両手に手錠がはめられる瞬間、コクピット内のピエロがレバーを操作。それにあわせて、ディーゼル・ドラグーンが手足をばたつかせた。
 その動作で手錠から逃れる事に成功し、そのまま立ち上がり逃走。
 
 ネルソン達は後方に下がりつつも、ディーゼル・ドラグーンを追うために、何故か自転車の準備を始める。

「警部! ここは自転車よりもパトカーとかで追いましょうよ!!」

「馬鹿者! 自転車は排気ガスを出さない素晴らしく環境に優しい乗り物だぞ!! そして何より、そこいらの車よりも速い!」

「いや、それはいくらなんでも無理ですよ!!」

 ネルソンとジョンは状況を忘れて口論している。
 この隙にピエロは、逃げ切ってやる、と思い、ディーゼル・ドラグーンの速度を上げる。
 だが、次の瞬間、


 ドガシャァァァァァン!!!!!


 何故か勢い余ってビルに突っ込んでしまった。
 崩壊していくビルの中にダイブしてしまったディーゼル・ドラグーンは素早く立ち上がり、更にビルと言う名の海の中を突き進んでいく。

「のあああああああああっ!? 何がどうなっている!? 何故こちらのコントロールを受け付けない!!!?」

 コクピット内のピエロが悲痛な叫びをあげているが、それでもディーゼル・ドラグーンは止まらない。むしろ、勢いが先ほどよりも増している。
 彼の目の前にあるモニターには先ほどから雑音だけが聞こえてきており、モニタアイからの映像が何故か白黒映像となっていた。
 まるでジェットコースターにでも乗りながら昭和時代のお茶の間にでもいる気分である。

ピエロはこの事態を全く予想していなかった為、ビルに向かって問答無用で突進していくディーゼル・ドラグーンの中で次第に気分が悪くなってきた。妙な頭痛と吐き気に襲われたのだ。

「お………おえ………くっ!」

 慌てて口の周りを手で拭うピエロだが、ディーゼル・ドラグーンは止まらない。
 
 ディーゼル・ドラグーンは暴走しているのだ。
 先ほどからピエロの操縦を全く受け付けずに、勝手な行動ばかり起こしている。本来ならこのディーゼル・ドラグーンの持ち主であるピエロの命令は絶対なはずだ。
 しかし、先ほど手足をばたつかせるコントロールをした際、何故かAIシステムに異常が生じてしまい、このような事態に陥ってしまったのである。

 この様子を見たネルソンは黙っては入られない。

「おおう!? ジョン。イシュのAIは賢いな。悪のご主人に下克上をしているぞ!」

「警部。アレは単なる暴走だと思うんですけど………しかもビルに突っ込む事が下克上なんでしょうか?」

「何を言う、ジョン」

 そう言うと、ネルソンは真剣な顔つきでジョンに振り返った。

「下克上の対象が内部にいるんだぞ。それならばビルにダイブでもして対象に衝撃を与えるしかあるまい」

「ハァ………そう言う物なんでしょうか?」

「そう言う物だ。では、ジョン。乗れ」

 そう言うと、ネルソンは自転車にまたがり、後ろの座席を指差す。
 どうやら、この事態でネルソンのやる気が更に上がったようだ。

「警部。マジなんですか?」

 ジョンは無言でネルソンに「冗談だといってくれ」と言うオーラを体中から放っていたのだが、無情にもそれはネルソンには届かなかった。

「当たり前だ! さあ、乗れ!」






 闇の中でエリックは奇妙な感覚を得ていた。
 何と言うか、頭だけ雨に打たれているような感覚が襲ってきたのだ。

「う………フゴォッ!?」

 すると、エリックは突然奇声を上げながら飛び起きた。
 水が鼻の中に大量に浸入してきたためである。

「ぐっ! ………何しやがるテメェッ!」 

 飛び起きたエリックはすぐに「犯人」を睨みつけながら怒鳴った。
 こんな事を平気でやる男はエリックの知っている中でも一人だけである。

「おお、ようやく起きたか」

 そこには、エリックの怒り顔にもまるで動じていないマーティオが突っ立っていた。
 しかも背中に大鎌を背負っており、何故か右手に如雨露を持って、エリックの頭に水をかけていた。このまま行けばエリックの頭から植物が生えてきそうな図である。

「いや、つーか如雨露で水をかけるのは止めろ!」

 エリックが手で如雨露の水を食い止めると、マーティオは「ふむ」と一回頷いてから如雨露を外に放り投げた。

「分かった、これからはホースを使う。これで顔も洗えて一石二鳥」

「止めんか! と言うか何でお前はそんな奇妙な行動を起こすんだ!」

 マーティオはエリックの言葉を無視した。その顔には何故か勝ち誇ったかのような笑みがある。

「さて、エリック。右手側を見るがいい」

 マーティオに言われるがままに右手側――――――自分が突っ込んできた窓ガラスの残骸がある方向――――――に目をやる。

 すると、そこには何故か闘牛の如く猛突進しているディーゼル・ドラグーンの姿があった。
 エリックはその光景を見た瞬間、世界がひっくり返ったのか、と思ったが、直後に頬に痛みを感じた。見れば、マーティオがナイフで自分の頬を浅く切りつけていた。

「何しやがる!」

「貴様が一人で別世界に突入していた為に、目覚ましの意をこめながらも一つ良い事を教えてやろうと思ってな」

 そう言うと、マーティオはエリックの頬から血が出てきたのを確認してから、ナイフを静かにしまった。まるで、このことが目的だったかのように、だ。

「状況は見ての通りだ。ディーゼル・ドラグーンはひたすら街を壊して歩き、警官隊も役に立たない。となればもう『最終兵器』に賭けるしかない訳だ」

「それと俺を切りつけるのとどういう関係が?」

 エリックが当然な疑問をぶつけると、マーティオは、ふっ、と鼻で笑った。エリックは殴りたい気持ちでいっぱいだったが、それをぐっと堪える。

「先ほど、ニックから入手した情報によると、最終兵器はそのままでも十分強力な兵器ではあるのだが、更に『ある機能』が存在する」

「あの野郎、そんなものを隠してやがったのか………と言うか良くお前聞き出せたな」

「ああ、ちょっとナイフをちらつけてやったら一発だった。もっとも、喋らなかったら本当にぶっ刺す所だった」

 それを聞いたエリックは思わず身震いをしてしまうが、本題を聞いていない事を思い出し、

「んで、その機能って何?」

 マーティオはナイフを再び取り出すと、その刃に少々付いているエリックの血を本人の前に突きつけた。

「最終兵器の矛先に『最終兵器に選ばれた者』の血を塗れ。そしてその矛先を地面に突き刺せ、そして唱えろ。『最終兵器』を呼び出す魔法の呪文を―――――」

 エリックはその言葉を聞いた瞬間、目を丸くしつつ口を開いてこう言った。

「マーティオ。まさかお前まで電波にかかるとは……ニックの伝染病は今度はマーティオを伝わって俺に感染してしまうのか………」

 マーティオは喋るのを中断したのと同時、背中に背負っていた大鎌を思いっきり振りかざしてから、エリックの目の前に振り下ろした。

 その一瞬だけでエリックは思った。
 マーティオは極めて冷静で、尚且、次に同じような事を言ったら殺される、と。

「ふむ。エリック。今のは聞かなかったことにしてやる。いいか、俺は電波になる事があるかもしれんがこれだけ言わせて貰うぞ。俺は絶対にニックから病気は貰わん」

「そっちで怒っていたのか………お前」

 意外な方向だった為、エリックはつい肩の力を抜いてしまった。

「当たり前だ。俺とあの男を一緒にするな。俺は死んででもあの男からは伝染などしない、つーかしたくも無い」

「ひでー言われようだなオイ。泣くぞ、ニック」

「構う物か。何なら今から手榴弾でも投げ込んで見せよう。しかもだな――――――」

 前置きを入れてからさも当然、とでも言わんばかりにマーティオはニックに暴言を吐きまくった。
 エリックはそれを聞いて思った。――――この男だけは絶対に怒らせてはならない、と。

「―――――さて、話が随分ずれてきたところでそろそろやばい事態になってきたようだ」

 やばい状態、と言いつつもマーティオの表情は何時もと変わらない。無表情だ。
 エリックは「何が起きたんだ」と問うとマーティオは外を静かに指差した。

 エリックがその方向に視線を向けると、ディーゼル・ドラグーンがこちらに突っ込んできているではないか。しかも、このまま行くと激突まで30秒も無いだろう。
 
 エリックはそれを見た途端、見る見るうちに顔色を変えた。そして『バッ』とマーティオの上着を締め上げる。

「何でもっと早く言わないんだよ、お前は!!」

「何時までも気づかない貴様が悪いのだ」

 こんな時でも何故か無表情のマーティオはエリックの腕を振り解くと、「さて」と前置きを入れてから冷静に続けた。

「先ずは穂先に自分の血を塗れ。そしてその穂先を大地に突き刺せ。止めの一撃には呪文を言うがいい」




 ネルソンは後ろにジョンを乗せて自転車でディーゼル・ドラグーンを追いかけていた。警官のクセに二人乗りはいい根性をしているな、と周囲は思っているのだが、そんな事は気にせずにネルソンは己の正義を熱く燃やしていた。
 ジョンにとってはいい迷惑である。

「警部! 追いかけ始めてからこんな事言うのもなんですが、どうやってあのディーゼル・ドラグーンを捕まえるつもりなんですか!?」

「ジョン、それは時の流れによるんだ! 今は追え、チャンスがきたら速攻で、且問答無用で逮捕だ!!」

 つまり、何も考えていないのだ。
 良くこの男と2年間もコンビを組んでいられた物だな、とジョンは思ったのだが、それもまた、今まで勢いで何とかなってきたのだ。それを考えただけでもジョンは身震いしてしまう。

 そんな時、何処からか電子音が聞こえてきた。何故かデトロイドの警官がビバリーヒルズで大暴れする映画のテーマソングが流れてきている中、ネルソンは自転車をこぎながらも携帯電話をポケットから取り出した。
 
「あー。こちらネルソン…………………おお! クリューゲルか!」

 その人物の名を聞いたと同時、ジョンの顔色が一瞬にして青色になった。

 何故なら、ネルソンは携帯電話で相手と夢中になって話しているので、目の前にある電柱柱を完璧がついても良いくらい見落としていたのだ。
 ジョンはネルソンに止まるよう必死になって叫んだが、既に時遅し。


 ズガシャァァァァァァァン!!!!!

 
 ネルソンとジョンが乗った自転車は勢い良く電柱に激突。
 電柱は「この程度か!?」とでも言わんばかりに無傷であったのだが、ネルソンとジョンは完全に気絶していた。
 今はただ、ネルソンが落とした携帯電話から声が虚しくその場に響くだけである。

『おい、ネルソン。聞こえてるのか? おーい。ネェ~ルソ~ン』

 ネルソンの同僚、クリューゲルの声は結局、彼には届かなかった。




 ディーゼル・ドラグーンは更にスピードアップしつつ、次のビルに突撃しようとしていた。中にいるピエロは、

「何でさっきからビルに特攻するんだぁぁぁぁぁぁっ!?」

 ただ叫んでいた。
 その疑問に正確に答えられる人物はいないが、それでも叫びたくなってしまう。

 しかし、叫んでもディーゼル・ドラグーンは止まりはしない。
 何かに引き寄せられるかのようにしてビルに突っ込む。それだけだ。

 しかし、そんなディーゼル・ドラグーンの目の前にあるビルから突然、巨大な光の柱が出現した。大きさはディーゼル・ドラグーンと同じサイズである。

 その光の柱を出現させたのは、ビルの一階にいるエリックだった。いや、正確に言うとエリックの持つランスが床に突き刺さっており、その穂先を中心として現れた巨大な魔法陣が発生させているのだ。

 その魔法陣は次第に光を撒き散らしながらエリックを飲み込み、巨大な塊となっていった。
 
 マーティオはその場にはいなかった。エリックに伝えるべき事を伝えた後、隣のビルの上で見物しているのだ。
 何故か普段余り見せない笑みを浮かべつつもマーティオは呟くように言った。

「コーリング――――――――リーサル・ウェポン。その矛先は持ち主の敵を滅ぼす為に…………降臨せよ」


「最終兵器、ランス!」

 光に包まれたエリックが叫んだのと同時、光の柱が弾けた。
 そこから生まれたのは一つの影だった。

 全身黒のカラーリングで、大きさはディーゼル・ドラグーンと同じくらいある。
 そして、右手には大型の槍が握られていた。リーサル・ランスそっくりの大きな槍である。


 その影の正体は巨大な鋼の塊だった。
 
 ディーゼル・ドラグーンと同じくらいの大きさの機動兵器だったのだ。




「こいつは……予想を越えてたな」

 ビルの屋上からこの様子を見ていたマーティオは目の間に現れた巨人を見て思った。
 まさか鉄人になるとは思ってもみなかったからだ。
 ニックから聞いていたのは、それが最終兵器の名に相応しい『物』になる、という事だけだったために、彼は内心、ミサイルにでもなるのか、と思っていた。

「成る程、確かに最終兵器だな。―――――さあ、エリック」

 マーティオは笑みを浮かべながら、『最終兵器』と共にあるであろう友人の名を発してから言った。

「イシュへの宣戦布告代わりに、―――――――――あの一つ目を思いっきりぶっ潰してやれ!」




 ビルに突っ込もうとしたディーゼル・ドラグーンは、目の前に壁のように現れた黒い鋼の巨人によって吹っ飛ばされていた。黒い巨人がアッパーカットを喰らわせたのだ。

 
 エリックは確かに感じていた。ディーゼル・ドラグーンを吹き飛ばしたアッパーカットの動作と、拳が確かに『何かに当たった』感触を得ていたのだ。
 この事から導かれる事は一つ。

(俺はこの鉄人とリンクしている?)

 先ほどはディーゼル・ドラグーンがこちらに突っ込んできたので、無意識にアッパーを繰り出してしまったのだが、それをこの鉄人は実行したのだ。
 つまり、この鉄人は普通の機動兵器とは違い、『己の動きをトレースする』システムのようだ。
 その証拠とでも言うように、エリックの周囲にはコントロールレバーの様な物は一歳無かった。ただ、周囲を完全に見渡せるようにモニターがあるだけだ。
 
「でも、一番の違いは座るところが無いってことかな。流石に俺の動きをトレースするんなら、座ったら色々と問題あるような気がするけど……」

 そう言いながらもエリックは自身の手に握られているランスの穂先を倒れているディーゼル・ドラグーンに向ける。すると、黒の鉄人『リーサル・ランス』もその動きにあわせて槍をディーゼル・ドラグーンに向ける。

「最終兵器というからには………一撃であんな装甲をぶち抜くんだろうな? 頼むぜ、俺はあんまこういうリーチが長い武器は使った事が無いんだからな」

 すると、ディーゼル・ドラグーンに向けられた穂先がまるで花びらのようにゆっくりと展開し始め、その中から銃口が現れた。
 ランスの銃口からは見る見るうちに光が集束していき、それは野太いレーザーとなって発射された。

 
 先ほどのアッパーによって吹き飛ばされたディーゼル・ドラグーンは倒れた姿勢だった為、穂先から発射された光に反応できなかった。
 中のピエロも同じだった。彼は自身に迫り来る光に気づいた瞬間、それがレーザーだということにも気づけなかった。何故なら、光を浴びた途端に彼の意識が、先ほどとは正反対に深い闇の中に落ちたからだ。


 エリックは驚愕の表情を示した。
 先ほどまで穂先を向けていた相手は野太いレーザーによって「完全に消し飛んでしまった」からだ。文字通り跡形も無く、である。

「い、幾ら最終兵器とはいえ……威力ありすぎだろオイ」

 そのレーザーは確かにディーゼル・ドラグーンを消し去った。しかし、その巻き添えとでも言わんばかりに周囲のビルやコンクリートをも破壊されたのである。
 
 その予想を越えた破壊力にエリックはただただ唖然としていた。視線が宙を泳いでおり、周囲の警戒を怠ってしまった。
 だからかもしれない。

 
 ガシャン


 エリックはその金属音が何なのかを理解するのに数秒かかってしまった。
 その金属音の正体は、

「手錠!?」

 エリックはリーサル・ランスが何故か巨大な手錠によって捕まってしまったのをモニター越しで見ていた。元々ディーゼル・ドラグーン用に作られたその手錠を使ってリーサル・ランスを捕まえた作業をしているのは警察である。


『ええい、そこのクーフーリンみたいなの! 貴様を逮捕した。抵抗するだけ無駄だ!』

「ゲッ! ……そういえばネルソン警部がいたのすっかり忘れてた」

 ネルソンの存在を確認すると、エリックはがっくりと肩を落とした。その為、エリックはネルソンの頭に大きなたんこぶが出来ている事には気づけなかった。





「何をやっとるのだ。あのアホは」

 ビルの上からこの奇妙な光景を見ているマーティオは思わず呆れた表情になった。
 しかも、あのネルソン警部に捕まったとなれば、

「俺もやばいかもしれないな。何にせよ泥棒やってるわけだし」

 そう言うと、マーティオはビルの屋上から逃げるようにして去っていった。

 それと同時、リーサル・ランスから助けを求める叫びがマーティオの耳に聞こえたのだが、彼は振り返らなかった。

「しばし待て、エリック。俺は久々に警察と言う組織に喧嘩を売ってみたくなってきた。――――それに準備もしないとな」

 マーティオは他人が見たら思わず背筋が凍えそうなほどの不気味な笑みを浮かべながら去っていった。




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